[発行] 大分大学医学部附属病院広報誌発行委員会

 

歯科口腔外科

 口に入った食物は粉砕され、唾液と混ざった食塊になり、食道に送り込まれます。これを咀嚼、嚥下といいます。この機能は齲蝕(虫歯)、歯周病や舌癌などの口の病気に侵されると大なり小なり影響を受けます。齲蝕(虫歯)と舌癌を一緒にするのは乱暴と思われるかもしれませんが、摂食機能の障害では同じです。私たちは口腔の病気を治すと同時に、治療のゴールを咀嚼や嚥下の回復において診療にあたっています。忘年会や新年会が続き宴会を避けたい気分ではありますが、会食は集団や社会を円滑に動かす重要な儀式になっています。人は食べることを重要な楽しみとしているからです。以下に事例を示します。

写真1写真2写真3
写真4写真5

T.下顎骨に腫瘍ができ(写真1)治療のために下顎を切除しました。このままでは顔が大きく変形し、噛むこともできなくなります。そこで腰の骨を移植します(写真2)。これで顔の変形を避けることができますが手術した所は写真のとおりで噛み合わせることができません(写真3)。片側での咀嚼は食事の楽しさを大きく奪います。事実、術後に体重が大幅に減少する方が少なくありません。この解決の一つとして歯科インプラント治療があります。チタンでできたインプラント体を下顎に埋め込む手術(写真4)をし、そこに人工の歯を取り付けます(写真5)。高度な技術です。これで治療前と同じように食事を楽しむことができます。この方は顎骨の腫瘍の切除で同時に歯を失い、骨移植とインプラントで治療しました。

 日本人の食事の主菜は魚でした。最近では肉を食べる機会が多く、義歯では物足りないと感じる方が少なくありません。義歯が不安定で、食事をしにくい人、噛めない人にインプラントはよい治療となります。が、高齢者や重い病気をもつ方々にはできないこともあります。また、保険での治療ができないことが大きな難点ではあります。ですが、歯科インプラントに関心のある方は当科外来で気軽にご相談ください。


U.噛み合わせの悪い人に顎の変形や発育不全を伴うことがあります。歯のはえている上と下の顎がアンバランスだから噛み合わないのです(写真6)。著しい場合には歯科矯正治療だけでは噛み合わせを正すことはできません。上顎や下顎の骨を切って、前、後、上、下など顔の変形を直し、上下の噛み合わせがよくなる方向に顎を移動します(写真7)。この方は上顎を前に、下顎を後ろに動かしました。言葉もはっきりします。

 この治療法を外科的矯正治療といいます。手術前と後での矯正治療に1年有余を要します。現在、県内の矯正歯科専門医との共同治療で治療しています。手術を前提にした矯正治療に健康保険が使えることがあります。顎の変形と噛み合わせにお悩みの方は外来窓口でご相談ください。

写真6写真7

(文責 歯科口腔外科 柳澤 繁孝)

最終更新日時: 大分大学医学・病院事務部管理課作成