教授に就任して
精神科神経科 教授
寺 尾 岳
(てらお たけし)
はじめまして。7月1日付けで着任しました寺尾 岳と申します。前任地の産業医科大学は、産業医を育てるという目的大学でしたので、教育内容や進路も一般の医学部と異なる部分がありました。その中で学んだ生活習慣病の概念を精神科臨床に生かしていくということが、私の抱負のひとつでございます。
すなわち、精神疾患に生活習慣病の要素を見出すことにより、極端に言えば「生活習慣病としての精神疾患」という概念を提唱することで、
1)精神疾患に対する偏見を軽減できる
2)発症予防が可能となる
3)早期発見・早期治療が容易となる
4)病識をつけやすくなり服薬も遵守される
などの利益が期待できると考えております。
それでは、なぜ精神疾患に生活習慣病の要素があるかと言いますと、
1)私どもの研究で、低コレステロールの状態が続くとうつ状態が発症しやすくなり、逆にある程度のコレステロール値を維持することでうつ状態が予防できることを確かめております。すなわち、食生活とうつ状態はある程度関連しています。
2)私どもの研究で、年間日照量が少なくなると自殺率が増加することを確かめております。また、季節性うつ病の治療法として光線療法の効果が確認されております。すなわち、生活の場における日照量が自殺やうつと関連しています。
3)私どもの研究で、精神科的既往がない高齢者において視力低下や聴力低下が進むことで音楽性幻聴や幻視が生じること、視力や聴力を矯正することで少なくともその一部は改善することを確かめております。すなわち、生活に必然的に伴う加齢によりさまざまな幻覚が生じる場合がありますが、これらは感覚器の治療により治ることがあるということです。
4)大分県には温泉が多くありますが、その一部には通常よりかなり高い濃度でリチウムが含まれています。最近の研究でリチウムは気分安定化作用の他に、犯罪予防や痴呆の予防に役立つ可能性が指摘されております。そこで、生活習慣としてリチウムを含む温泉のお湯を飲んでいただく(飲泉療法)ことで予防療法が出来ないかと、夢のようなことを考えているわけでございます。
この他にも、睡眠、運動、飲酒、喫煙、不飽和脂肪酸摂取、コーヒー摂取、ダイエット、タイプA行動パターンなどが精神状態に影響を与えうる生活習慣として知られております。これらの生活習慣を科学的に整理して、メンタルヘルスに良いものは励行し、悪いものは軽減させる方向で取り組むことが、「生活習慣病としての精神疾患」の概念を念頭に置いた取り組みとなってきます。
以上のような切り口を工夫しながら、精神疾患の予防とともに精神科の敷居を低くしていく、そして周辺の医療機関と連携しながら大分県の精神医療の質をさらに上げていくことを目標にしたいと考えています。何卒、皆様のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
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