微生物検査

微生物検査室は,感染が疑われる部位から採取されたさまざまな検査材料 (糞便・尿・血液・髄液・胸水・腹水・膿分泌物・咽頭・鼻腔・組織など)を用い、 食中毒による下痢や嘔吐・呼吸器疾患(せき、のどの痛み、肺炎など)・ 化膿といった感染症や日和見感染の原因となる病原微生物や真菌(酵母・カビ)やウイルスなどの検出を目的とする検査室です。
通常微生物検査では、検査材料を受け取ってから、感染の原因となる菌を特定し、その菌に対する薬剤の感受性を測定するまでに、 最低3~4日を要しています。また、嫌気性菌や真菌といった発育速度の遅い菌などは更に多くの日数を要しています。
そのため、臨床サイドでは微生物検査の結果を待たずして抗菌薬の投与にはいることが少なくありません。
現在当検査室では、迅速な結果報告を目的として、質量分析器を導入し、当日もしくは翌日には菌の同定報告を行えるようになっております。
また、かつては結果報告までに1ヶ月以上を要していた抗酸菌(結核菌・非定型抗酸菌)につきましても、 遺伝子検査(PCR)の導入により、検査材料の提出後、最速1~4時間後には抗酸菌の検出が可能となっています。
昨今、MRSAや多剤耐性緑膿菌(MDRP)や多剤耐性アシネトバクター(MDRA)といった数々の薬剤耐性菌による院内感染が社会的問題となっております。 当院では感染制御部と連携を取り、院内感染の発生防止に貢献できるよう努めております。

微生物とは・・・

肉眼では判別することはできませんが、顕微鏡などで拡大することで観察できる大きさの生物のことで、細菌・ウイルス・酵母・カビなどが含まれます。
具体的には、食中毒の原因である大腸菌O-157・カンピロバクター・ノロウイルスであったり、 院内感染の原因となるMRSA・多剤耐性緑膿菌・多剤耐性アシネトバクターなどがあります。

顕微鏡画像

検査する前に・・・

微生物は私たちヒトの皮膚表面・空気中・床や机の上・ほこりの中などのありとあらゆる場所に生息しています。 そのような環境中に生息する微生物が検査材料に混入するのを防止するため、作業の大半を安全キャビネットの中で行っています。 また、作業を行う私たちも常に使い捨てのガウンやマスク・手袋といった防護着を着用することで、自らの感染防止に努めています。

安全キャビネット 防護服

一般細菌検査について・・・

一般細菌とは,特定培地(標準寒天培地)を用いて36±1℃・24±2時間での条件下にて培養したときに培地上で 増殖する細菌に対する名称のことです。特定の細菌またはグル-プを指すものではありません。

一般細菌検査の流れ

*上記図の提出から報告までに3日~4日の日数を要します。


(塗抹染色)
グラム染色という方法を用いています。染色を行うことにより、検査材料中の細菌の有無や菌量などが分かり、 また菌の大まかな分類も可能となります。グラム陽性菌であれば青紫色に、グラム陰性菌であれば赤色に染色されます。

グラム陽性菌 グラム陰性菌

(分離培養)
検査材料に応じて様々な寒天培地に材料を塗り広げていき、その培地を約36℃の培養装置の中で20時間培養します。 材料中に細菌が存在していた場合には、培地の表面にコロニーと呼ばれる菌の塊が生えてきます。

         

(同定検査)
コロニーの色・つや・形といった肉眼的な性状、生化学的な検査、同定キット、質量分析器、 同定機器による検査などを行うことにより、菌名が決定づけられていきます。

質量分析器 同定機器



生化学的検査用培地 同定キット


(薬剤感受性検査)
 感染症を引き起こす原因となった細菌に対して、どの様な抗生物質が効果的かを調べる検査です。

嫌気性菌検査について・・・

酸素の存在しない環境下でも発育することのできる細菌の検査です。 大きく分けて酸素の存在下では生存することのできない偏性嫌気性菌と酸素の存在下でも発育することのできる通性嫌気性菌があります。
一般的な嫌気性菌検査では偏性嫌気性菌を対象としています。検査の流れとしては、 一般細菌検査と同じですが、発育速度が遅いためにやや日数が掛かります。

嫌気性専用培養器(この装置の中で嫌気的な環境を作っています)

微好気性菌について・・・

大気中よりも低い酸素濃度(2~10%)の環境下で発育良好な細菌の検査です。 代表的な菌としては、胃潰瘍の原因となるピロリ菌や胃腸炎の原因となるカンピロバクターといった菌があります。

抗酸菌検査について・・・

抗酸菌は大まかに結核菌と非定型抗酸菌とに分類されます。症状としては どちらとも咳、痰、全身倦怠感、微熱といった状態が長期に渡って続きます。 しかし、結核菌はヒトからヒトへ感染し、ヒトの体内でしか生息できないのに 対して、非定型抗酸菌は環境中に生息しており、ヒトからヒトへの感染はほとんど無いと言われています。
抗酸菌は一般細菌に比べ発育が非常に遅い為に、以前は菌名が同定されるまで に1ヶ月から2ヶ月程の期間を要していました。しかし近年、遺伝子検査が 導入されるようになり、当検査室では、結核菌は最速1時間程度で同定できる ようになりました。
非定型抗酸菌の一部の菌種につきましても、最速3~4時間にて同定できるようになっております。
結核というと過去の病という風に思われがちですが、決してそうではありません。毎年2万人を超える患者さんが新規に報告されています。 抗結核薬をきちんと飲めば治る病気ですが、病院への受診が遅れると重症化することがあります。
疑わしい症状の方は早めに近医に罹られることをお薦めします。


好酸菌検査の流れ


(塗抹染色)
蛍光染色、チール・ネルゼン染色という2種類の方法を用いています。

チール・ネルゼン染色
(ピンク色の部分が菌体です)
蛍光染色
(光っている部分が菌体です)

(検体処理)
NALC(N-アセチル-L-システイン)-NaOH法により、抗酸菌以外の菌を除きます。


(分離培養)
小川培地、液体培地を用いています。

小川培地 液体培地

(遺伝子検査)
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)/M.avium /M.intracellulareの3菌種の同定が可能です。
LAMP法・TaqMan法の2種類の測定方法を用いて検査しています。


(同定検査)
DDH(DNA-DNA-ハイブリダイゼーション)法と質量分析法の2種類の測定方法を用いてより同定検査を行っています。


(感受性検査)
感染症を引き起こす原因となった好酸菌に対して、どういった抗結核薬が効果的かを調べる検査です。

真菌検査について・・・

自然界には数万種も真菌が生息していると言われています。水場や食べ物に生えるカビも真菌の一種ですし、 パンやお酒を作る際に用いられる酵母も真菌の一種です。そういったことからも、真菌は身近に感じることのできる微生物ではないでしょうか?
ほとんどの真菌はヒトに害を及ぼすことはありませんが、ごく一部の真菌は感染症を引き起こします。 また、普段は無害であっても免疫力が低下している場合には感染症を引き起こすこともあります。
真菌感染症としては、皮膚の表面や爪などに感染する(俗にいう水虫)浅在性真菌症と組織や 臓器などの体内に病変を形成する深在性真菌症があります。 培地に発育したコロニーの色・つや・形といった形態観察やコロニーを染色した顕微鏡画像や質量分析法などを用いて、検査を行っています。

培地発育像 染色像

当検査室にて実施している特殊細菌検査について・・・

当検査室では検査の迅速化を目的として、下記のキット化された検査を 実施しています。試薬を用いています。

・血清カンジダ抗原検査
    血清中のカンジダ抗原の抗体価を測定する検査です。

・A群溶連菌検査
    小児の咽頭炎の原因菌であるA群溶連菌の検査です。

・ロタウイルス検査
    冬期において乳幼児の下痢を起こすウイルスの検査です。

・クロストリジウム ディフィシル毒素検査
    偽膜性腸炎の原因となるクロストリジウム ディフィシルの産生する 毒素の検査です。

・髄液迅速検査
    髄液中の髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、B群溶連菌の有無を 調べる検査です。

・尿中肺炎球菌検査
    肺炎の原因菌である肺炎球菌の検査です。

・尿中肺炎球菌/レジオネラ検査
    肺炎の原因菌であるレジオネラ菌の検査です。

・β-D-グルカン検査
    血中のβ-D-グルカン(真菌細胞壁多糖体)を定量する検査です。

・エンドトキシン検査
    血中のエンドトキシン(内毒素)を定量する検査です。

・アデノウイルス検査
    鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液中に咽頭結膜炎や肺炎などの原因である アデノウイルスの有無を調べる検査です。

・RSウイルス検査
    鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液中に乳幼児の冬かぜ(細気管支炎や肺炎)の 原因であるRSウイルスの有無を調べる検査です。