研究室配属 Research Training

 ◆2015年の研究室配属


 今年は、これまでで最多の6名の配属学生が参加します。加えて、中国の河北医科大学からMeng Zesongくんが短期留学生として感染予防医学講座に参加します。中村さんは、妊娠時の子宮の樹状細胞サブセットの研究、白神くんは九州産のサバに寄生するアニサキスの研究、松岡くんは多発性硬化症の研究、伏谷くんはTh17細胞とDGCR14分子の研究、黒川くんはリーシュマニア原虫の乾燥LAMP法の開発、相馬くんは国内蚊のチクングニアウイルスに対する感受性の研究、Mengくんが大腸上皮細胞における抗菌ペプチド誘導の解析を行います。
  みんな頑張れ! ヽ(‘ ∇‘ )ノ
配属学生 氏名 研究テーマ コメント

 1241105 中村 匠子
● 妊娠時の子宮における自然免疫細胞サブセットの機能解
  指導教員:神山、小林

 妊娠時には過度な免疫応答を抑制する免疫細胞の作用が重要であるが、子宮に存在する自然免疫細胞群において、妊娠時の免疫抑制に重要な役割を果たす細胞群(サブセット)の同定は未だになされていない。そこで、妊娠時における子宮自然免疫細胞のミエロイド系マーカー分子発現パターンを解析し、妊娠の成立に重要な役割を果たすと考えられるサブセットの探索を試みた。マウスを未妊娠群、妊娠 5 日目群、妊娠 12 日目群 に分け5つのミエロイド系細胞群の割合をFlow Cytometry法で解析したところ、妊娠の経過によって大きく変動するサブセットがあることが明らかになった。このサブセットは、抑制系共刺激分子であるPD-L1, PD-L2の発現や、制御性T細胞の誘導に関連するといわれているCD103の発現が、未妊娠時に比べ上昇していた。さらに、免疫抑制性のサイトカインIL-10の発現も上昇しており、妊娠の成立や維持に重要な役割を担っている可能性が示唆された。今後、このサブセットの機能解析が重要である。

技術:マウスの取り扱い、Flow Cytometry法、RT-PCR法

【感想】3か月半の研究期間は、新しい技術を覚えられたことや免疫学を復習しただけでなく、結果に対する考え方、研究に携わる生活など、多くのことを感じ、学べる期間でした。ご指導していただきました神山先生、小林先生をはじめ、研究室の皆様にお礼申し上げます。

【教授コメント】普段、中村さんは控えめな性格ですが、研究は朝から晩まで熱心に取り組んでくれました。ひとつの研究テーマに真剣に取り組む姿勢がとっても印象的でした。さすがに、FACSを2台を同時に動かすのは、やり過ぎ!?

 1241103 白神 浩平
● 九州産サバ水揚げ地別寄生アニサキス種の解析及びIgE抗体誘導能  指導教員:飛彈野、小林

 アニサキス症は、魚介類の生食後幼虫が胃壁に穿入して激しい腹痛を引き起こす疾患である(劇症型胃アニサキス症)。一方で、健康診断時等の内視鏡検査で、胃粘膜に穿入する虫体が偶然見つかる無症候例もある(緩和型胃アニサキス症)。しかし、症状の有無を規定する因子は未だ不明である。日本海側と太平洋側で異なるアニサキス種が分布するが、その種の違いによりアニサキス症を引き起こす能力に違いがあるのか議論されている。そこで、九州産サバ水揚げ地別の寄生アニサキス種の解析を行うこと、及び得られた虫体をもとに2種のアニサキス(Anisakis simlex s.s. 及びAnisakis pegreffii)幼線虫による1型アレルギー誘導能の違いを明らかにすることを試みた。

技術:PCR−RFLP法、マウス免疫実験、ELISA法

【感想】 基礎系が医学研究の基であり、礎となっていることを痛感した。

【教授コメント】白神くんは、先行配属して早くからアニサキスの研究に取り組みました。チームSAVAを結成して、みんなでサバの解剖を沢山しました。学士編入学の白神くんは製薬会社で研究の経験もあるので、研究推進能力が高く、配属期間に重要な発見もしました。また、配属期間中は研究室配属実行委員長として学年もリードしてくれました。お疲れ様!

 1241086 松岡 秀和

● T細胞におけるTRAF6がEAEに与える影響
  指導教員:神山、小林

 多発性硬化症は世界中で250万人以上の患者が罹患している免疫性神経疾患であるが、未だに決定的な治療法は確立されていない。多発性硬化症のマウス実験モデルとしてEAE (実験的自己免疫性脳脊髄炎)モデルが広く使用されているが、近年、ヘルパーT細胞(Th17細胞)が産生するIL-17がEAEの増悪因子であることが示された。一方、シグナル伝達分子TRAF6がT細胞で欠損するマウスは、全身性炎症疾患を自然発症することや、Th17細胞の分化が亢進することが報告された。しかし、T細胞のTRAF6欠損がEAE症状にどのような影響をおよぼすのか不明である。そこで、T細胞特異的TRAF6欠損マウスのEAEモデルマウスを作製し、その病態を解析したところ、予想に反して症状が軽減することが明らかになった。

技術:動物実験(マウス免疫)、RT-PCR法、FACS解析
   ELISA法 、病理学的解析

【感想】 今回の研究室配属で私は様々な実験手技を学べました。今回の研究テーマとは別の研究にも携わることができ、充実した二ヶ月を過ごすことができました。また基礎研究の仕事がどのようなものかを体験でき、将来を考える上で参考になりました。

【教授コメント】松岡くんは、将来基礎研究者になることも視野に入れ、私の講座を選んだそうです。 なるほど、いろんなことに興味をもち、探究心旺盛に果敢に挑戦。みんなから、親しみ込めて修造、修造と呼ばれてたのが印象的(テニスの松岡修造より)。研究にハマリすぎて、夢で実験動物に襲われて、思わずTh17(てぃえいちじゅうななっ)と叫んで目を覚ましたとか。今回の体験が、君の将来の糧になることを祈る!


  1241084 伏谷 仁志
● Th17細胞制御因子DGCR14の生理的機能の解析
  指導教員:飛彈野、小林

 自己免疫疾患に関与するとされているIL-17を産生するヘルパーT細胞;Th17細胞の分化に必須の転写因子ROR-gtに結合する分子としてDGCR14が同定された。DGCR14は、先天性自己免疫疾患であるDiGeorge症候群の原因遺伝子の1つである。しかし、DGCR14欠損マウスは発生初期で死亡するため、個体での役割、特にT細胞における生理的機能は不明である。そこで、Cre-loxP部位特異的組み換えシステムを利用して作製されたT細胞特異的DGCR14欠損マウス (CD4-Cre DGCR14f/fマウス)を用いて、Th17分化におけるDGCR14の生理的機能の解析を試みた。

技術:動物実験(マウス免疫)、RT-PCR法、FACS解析

【感想】2か月と短い期間であったが、研究の本質・醍醐味を知れた充実した期間であった。今回の経験を将来を決める判断材料として活かしたいと思う。

【教授コメント】伏谷くんは、私が担当する免疫生物学の講義を2年生の時トップの成績で単位を修得。研究室では、大学院生もびっくりするほど、朝から夜遅くまで研究に没頭しました。Cre-loxPシステムによるコンディショナルノックアウトマウスを用いた高度な研究手法で、Th17細胞という免疫学の新しい分野の研究に挑戦しました。

  1041034 黒川 昌悟
● 乾燥LAMP法によるリーシュマニア原虫の迅速簡便検出法の開発の試み
  指導教員:林田、小林

 リーシュマニア症は毎年130万人が新たに感染し2万人が死亡している原虫感染症であり、WHOの定義する顧みられない熱帯病 (NTD) の1つで、その研究は大変遅れている。リーシュマニア症の1つである内臓リーシュマニア症(別名:カラ・アザール)では、発熱、肝脾腫および貧血といった症状を示し、放置すれば死に至る。診断は骨髄液や肝臓における顕微鏡検査で原虫を証明することだが、侵襲的で検出感度も不十分である。また内臓リーシュマニア症は、時に治癒後にポストカラアザール皮膚リーシュマニア症(PKDL)と呼ばれる皮膚病変を形成し、本原虫のリザーバーとなり得ることが懸念されている。そこで、内臓リーシュマニア症の血液や皮膚病変から原虫を簡便かつ高精度で診断する方法の確立を目指し、Leishmania donovaniに対する乾燥LAMP法の確立を試みた。その結果、DNA精製が不要で、操作も簡便で、PCR法同様の高感度の乾燥LAMP法が確立できた。

技術:Dry-LAMP法、PCR法、細胞培養、原虫培養

【感想】今回2ヵ月の間感染予防医学講座に配属させていただき、基礎医学研究という学問に濃密に触れる機会を得ることができました。基礎医学の自分の疑問に素直になり、腰を据えて疑問解決に向けて結果を得ようとする探究する姿勢はまさに求道者そのもので刺激的なものでした。今後座学や病院実習を学ぶことはもちろん、疑問に思うことを見過ごさない姿勢でありたいと強く思った配属期間でした。5年後、10年後基礎や臨床分野の中で自分の疑問を見つけて、たとえ答えが出なくてもサイエンスに取り組むことで先生方に顔向けできたらと思っています。今回は林田先生はじめ、感染予防医学講座ならびに動物実験部門のスタッフの皆様には大変お世話になりました。ありがとうございました。

【教授コメント】黒川くんのチューターとして一言。「よくここまで成長したな!」


  1241051 相馬 颯介

● Aedes (Stegomyia) scutellarisグループ蚊のチクングニアウイルスに対する感受性・媒介能の比較
  指導教員:林田、小林

  チクングニア熱は、アルファウイルス属のチクングニアウイルス (CHIKV)によって引き起こされ、発熱、関節痛、筋肉痛を主症状とする急性熱性疾患である。未だに有効なワクチンや抗ウイルス薬がなく、対症療法が主である。CHIKVはネックイシマカAedes (Stegomyia) aegyptiやヒトスジシマカ Ae. (Stg.) albopictusによって媒介されることでヒトヘの感染が成立する。しかし、日本に分布するヒトスジシマカの近縁種であるヤマダシマカ Ae. (Stg.) flavopictusやリバーズシマカ Ae. (Stg.) riversiの媒介能については詳細な研究はなされておらず、これらヒトスジシマカ近縁種のCHIKVに対する感受性及びその媒介能を検討した。ウイルス液を1時間経口感染させ14間飼育した後、胴体と脚を分離しRT-PCR法にてCHIKVゲノムの検出を試みた。その結果、ヤマダシマカは高い感受性と媒介能を有することが示唆されたが、リバーズシマカの感受性は低いことが示唆された。

技術:蚊の飼育、RT-PCR法、細胞培養、ウイルス培養

【教授コメント】相馬君は単位が足りずに留年となるも、そうなれば研究を1年2ヶ月間やると腹をくくって本格的に研究をスタートしました。秋には日本寄生虫学会・日本衛生動物学会南日本支部会にて研究成果を発表しました。この経験が絶対良いものになるように全面的にサポートしますよ。人生塞翁が馬。この後の展開を楽しんでほしい。

河北医科大学 Meng Zesong

● 大腸上皮細胞における抗菌ペプチド誘導の解析
  指導教員:園田、小林

 大腸上皮細胞において様々なPAMPs (Pathogen associated molecular pattern)刺激によって発現が誘導される抗菌ペプチドをリアルタイムPCR法やWestern Blot法によって解析する。また、この発現誘導におけるTRAF6分子の役割を遺伝子組換え技術を用いて解析する。

技術:real time PCR法,Western Blot法,遺伝子組換え技術,遺伝子導入法,ゲノム編集(CRISPR-Cas9)

【教授コメント】Mengくんは、中国河北医科大学からやってきました。好奇心旺盛で、人懐っこさが印象的です。CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集技術に興味をもって、将来の遺伝子治療への応用を熱く語ってくれました。