総合診療部部長 藤岡 利生
医療技術のめざましい進歩によって、大学病院などの高度先進医療を担当する特定機能病院での医療レベルはますます高度化、細分化する傾向にあります。
一方、最近の傾向として患者さんの立場に立ったあたたかい医療の実践が強く求められ、全国的にも患者サービスや患者アメニティの向上を図る必要性が痛感されています。このような社会的な要請に応えるために、文部省から本年4月に大分医科大学医学部附属病院に総合診療部の開設が正式に認められました。新しくできた総合診療部ではどのような患者さんを診るのか?どのような研究をするのか?あるいは大学病院の中で、学生や卒後間もない臨床研修医の教育にどのような役割を果たそうとしているのか?について説明します。
まず診療面では、色々な症状があって他の医療機関からの紹介状を持たないで大学病院を受診したが、どの診療科にかかれば良いかが分からない場合や、今までに複数の異なる病気で治療を受けたことがあり、その病気がより高度な専門医の治療を必要としない患者さんなどを対象として一つの科で総合的に診療にあたります。また、最近とても増えている心理的・社会的ストレスにより引き起こされる身体の諸症状に対しても積極的に対応して行きます。さらに、頻度の高い疾患の初期治療における全身管理や小外傷の処置なども行います。高齢化社会を迎えて激増している慢性疼痛に対する治療(ペインクリニック)も重要なテーマです。このように、総合診療部では、ある特定の専門領域に偏らないで広く全人的な医療を行うことをめざしています。
次に、研究の面について少し述べます。総合診療部の重要な研究テーマとしては、頻度の高い疾患に対して、医師の 「感」 に頼る診療ではなく、科学的根拠に基づいた診療 (Evidence Based Medicine :EBM) を実践することです。最近、頻度の高い疾患に対するEBMの確立が重要視され、本院の総合診療部も厚生省の依頼を受けてEBMの確立のための研究に力を注いでいます。この研究は、間もなく21世紀を迎える今後の医療のあり方に大きく貢献するものと思います。
また、慢性疾患の長期管理が重要です。とくに、生活習慣病の予防や治療に加えてその長期管理と生活指導も総合診療部の重要な任務です。その一環として、国民の死亡原因の第一位を占める癌の予防も重要です。とくに頻度の高い悪性腫瘍に対して、生活習慣・環境因子などを改善することにより癌の発生を予防できるかどうか?大変重要な研究テーマです。研究の手始めとして、世界中で話題になっている 「ピロリ菌の除菌治療による胃癌の予防法の開発」 の研究を行っています。動物実験ではピロリ菌の感染が胃癌の発生と密接に関連することが確認されました。ピロリ菌を治療すれば本当にヒトの胃癌が予防できるのか?胃癌多発国である日本にとっては大変重要な研究です。ご希望の方は、総合診療部でピロリ菌の診断・治療・経過観察が可能です。このような臨床予防医学的なアプローチも今後の重要な研究課題です。順次、大腸癌やその他の疾患にも広げて行きたいと考えています。
医学教育の面からは、学生や臨床研修医の指導が重要です。まず、学生には患者さんとの接し方や全身の診察手技などの基本的な臨床技術を修得させることが重要です。卒後間もない臨床研修医には、まず総合診療部で頻度の高い疾患に対する基本的な診療技術を身につけることを勧めております。その後、希望する専門各科に所属してより専門的なトレーニングを受け、専門医としての道を歩む選択もあるでしょうし、総合診療部で「総合医」として地域医療に貢献する道を歩む選択もあります。
最初は、総合診療部としては外来診療のみのスタートです。現在、外来診察室の環境改善などに全力をあげて取り組んでいます。