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AACR2017にて研究発表を行いました。

 第108回AACR Annual meetingに参加して AACR Annual meetingは、米国癌学会の年次集会であり、今年は4年ぶりにWashington DCで行われました。前回DCで行われた際は、私はJohns Hopkins大学(The Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center)に留学中で、日本から来る研究者をもてなす立場でしたが、月日が経つのは早いものです。私は、当講座より” Acquired resistance to EGFR-TKI in the uncommon EGFR mutation, G719S”というタイトルでポスター発表の機会を頂き、大分大学教職員留学等支援のサポートのもと、3月31日から4月6日の5泊7日という日程で参加して来ました。DCでは、Cherry blossom festivalの最中で、天候もよく、Tidal Basinでは約100年前に日本から贈られたソメイヨシノが満開でした。会期中、留学中の同僚や友人たちと再会したり、現在米国に留学している仲間と話す機会があったりと、大変有意義な時間を過ごさせて頂きました。また、投稿中の論文についても、留学中のボスとやり取りすることができ、留学中の仕事にようやく片が付いたという点でも感慨深いものでした。
 さて、今年の会議でのトピックとしては、新しい技術を用いたがんの早期診断、早期治療、更にはTCGAならぬPCGAという概念、人工知能を用いたbig dataの活用や、Hallmarks of Cancerにおける新しい概念といった内容が紹介されていました。
 Cell free DNAやcirculating tumor cell, exosome中のmiRNAなどを用いた非侵襲的な診断技術を、single cell RNA sequencingや遺伝子変異解析と組み合わせることで、より早くがんの再発や治療効果を判定できるような研究が進んでいます。また、化学、工学の研究者と共同して、がん特異的に薬剤を到達させるナノ化合物の研究は、治療と診断の融合ということで、”theranostic imaging”という造語で紹介されていました。TCGAに代表される大規模シーケンシングデータは、様々なomicsデータを統合され、データベース化されていますが、これにAIを導入することで更なる進歩が期待されますし(AACRで初めてのAIシンポジウムだったそうです)、実臨床でもこれらのデータを活用できるような方向へと進んでいるようです。がんのpreventionにおけるdataの重要性も強調されており、Pre-Cancer Genome Atlas (PCGA)という試みも紹介されていました。Preventionに力を入れる事で、人々の健康増進や、医療費の削減に繋がると考えられます。
 今年の大統領選で、Donald Trump 氏が大統領に選ばれたことで、Joe Biden前副大統領が中心となって進めてきたCancer Moonshot initiativeは宙に浮いた状態となっており、NIHの予算も20%カットされる事態が紹介されました。Plenary sessionのopeningでは、Joe Biden氏や、がんの研究に多大な寄付をしてきた実業家、Sidney Kimmel氏の発言とともに、みなでプラカードを掲げてがん研究の必要性をアピールしました。SNSで拡散させる目的だそうです。話はそれますが、今回、”Do not post”と明示されていない発表については写真を撮ったり、SNSにアップしたりしてよいというポリシーの変化があり、時代の流れを感じました。
 他に、注目すべき発表としては、やはり癌免疫でして、非小細胞肺癌に対するNivolumabの5年生存率16%という驚くべき発表や、更なる成績向上を目指したcombination therapyに関する発表、免疫チェックポイント阻害剤治療の耐性機序としてneoantigenの消失、JAK/STAT経路の異常、MHCの異常などの報告がありました。また、CAR-T療法のリンパ腫における成功が報告され、免疫療法の新たな展開が期待されます。
 以上のように、年々、世界では加速度的に研究が進んでいっているのを肌で感じることができ、いい刺激を受けることができました。我々のポスター発表も、多くの人から質問を受け、がん研究の進歩に少しでも役に立てるよう、更なる研究を進めていく気持ちを新たにしました。最後になりましたが、このような機会を与えていただき、誠にありがとうございました。

診療講師 小副川 敦