医療を取り巻く環境は益々厳しさを増しております。最大の要因は保険医療が財政破綻寸前までに追い込まれていることであります。現在、年間30兆円の医療費が使われており、これはGDPの7.5%に当たります。米国では14%、ヨーロッパ諸国の10%前後と比べれば必ずしも高い値ではありません。しかし、医療費は毎年確実に増加しており、その主な原因は高齢者医療費の増加にあります。日本経済が毎年上昇していれば、GDPの7.5%でも良いのですが、長引く不況では医療費も実質減少となります。WHOが世界一と認めている日本の医療も、今の医療保険制度が崩壊してはひとたまりもありません。なんとしてもこれを維持するために、政府は受診者の負担増(30%負担、75才以上の10%負担等)と医療費(診療報酬、薬価等)抑制を図っております。また、これまでは病気の診断や治療にかかった額を診療報酬として医療機関は請求してきましたが、近々、包括払い(疾患別に診療報酬額を決め、それ以上は支払わない)が導入されるでしょう。
私共医療機関で働く者には、医療提供体制の改革に応じて病院の機構も変える必要があります。国の求めている改革の柱は、根拠に基づく医療(EBM)と医療のIT化の推進ならびに情報公開であります。勘と経験の医療ではなく科学的根拠に基づいた医療が重視されます。情報公開を押し進めることは、患者さんご自身にも治療に参加していただくことになります。
本院は特定機能病院として位置づけられており、その使命は高度先進医療の開発と提供による医療技術水準の向上(研究開発機能)、地域の中核的病院として質の高い医療の提供(医療提供機能)、ならびに倫理観豊かで明日の医療を担う医療人の育成(教育研修機能)にあります。しかし、これらの機能を遺憾なく発揮するためとは云え、医療財源を制限なく消費したり、病院運営に無駄があったりしてはなりません。また、患者さん本位の医療という基本理念のもとに、医療事故のない良質な医療の提供を心がけねばなりません。
国の医療機関の機能別分類に従いますと、本院は病気の急性期のケアにあたることになります。早晩、平均在院日数を20日以内とする必要があります。このため、患者さんには急性期の治療がすんだり、治療方針が決まった時点で、出来るだけ早くご自宅に近い、あるいはその病気の治療ができる医療機関にお移りいただくようご協力をお願いすることになります。これらの連携が円滑に出来るよう地域医療連携推進室を設置します。ご紹介の医療機関から連絡があると、診察や検査の予約をし、入院前に必要な検査を済ませ、何度も来院しなくてよいように努めます。
平成16年度からの国立大学の独立法人化に伴い、私共の病院も民間的手法による管理・運営を行います。良い医療は健全なる病院運営の下で生まれ育ちます。
このような理念と信念で皆様の治療に当たってまいりたいと存じます。