当教室は、研究員(ポスドク)あるいは臨床医の立場での海外留学を応援しております。杉尾教授は1993年から1995年まで米国テキサス州ダラスにあるテキサス大学Southwestern Medical Center、小副川教授は2011年から2013年まで米国メリーランド州にある国立がん研究所(NCI)とジョンズ・ホプキンス大学、原武助教も2022年から2024年まで米国マサチューセッツ州ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学しました。
原武直紀
2022年5月より約2年半、米国のボストンにあるハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所で、ポスドクとして勤務し、肺癌の分子標的薬の耐性機序についての基礎研究を行っていました。
日々、臨床や手術に携わる中で、癌の知識を根本から身につけ、世界中のオンコロジストとdiscussionができるようになりたいという思いが強くなり、海外基礎研究の世界に飛び込みました。
渡米してすぐは、「英語がわからないのか、研究がわからないのか」すらわからない苦しい状況でしたが、ただ必死に研究を進めながら、毎週土曜日のmeetingをはじめボスとのdiscussionを毎週繰り返すうちに、当初の目標は少しずつ達成されていきました。世界的な施設でP.I.を務めるボスの癌全体にわたる知識や発想、そして意思を尊重してくれる指導法には感銘を受けるばかりでした。
また、ボストンは世界的なラボが近くに多く、コラボレーションの垣根も低く、著名な研究者たちとのmeetingも非常に貴重な経験となりました。多くの留学生や現地の学生たちとの交流の機会も多く、まさに人生の視野が広がる経験となりました。
一方で、家族もとてもこちらでの生活、学校を楽しんでおり、現地の家族とも仲良くなり、家族共々大変貴重な経験ができました。自分と似た境遇、志を持つ人たちとの出会いも多く、それだけでも留学の価値があると感じました。また、学会や息抜きの旅行でアメリカ全土を巡ることができたことも、とても素敵な思い出です。
自分で行き先を選び海外での生活を経験できる職種も限られているかと思います。長い医師人生、ぜひ将来の海外留学も視野に入れてみてください。
小副川 敦
私は、2011年8月から2012年7月まで米国メリーランド州ベセスダにある国立がん研究所(NCI)に、その後、ボスの異動に伴い、2012年8月から2013年8月までボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学に研究留学しておりました。
ボルチモアはアメリカ東海岸にある大都市の一つで、ワシントンDCまで車で1時間、フィラデルフィアまで1.5時間、ニューヨークまで4時間と近隣の大都市へのアクセスの良い場所にあります。また、ソフトバンクの和田選手が移籍したオリオールズや、アメリカンフットボールで毎年のようにプレイオフに進出するレイブンスの本拠地であり、繁華街は観光地としても栄えています。一方、繁華街から離れると、治安はかなり悪く、実際ここを舞台とした犯罪、刑事ドラマが数多く作られています("Homicide"とか、"The Wire"とか)。その治安が悪いエリアに、ジョンズ・ホプキンス大学があります。
ジョンズ・ホプキンス大学は私立の総合大学で、1876年に、世界初の研究大学院大学として設立されました。特に医学の分野で優れた実績を残しており、古くは乳癌手術のWilliam Stewart HalstedやOsler結節のWilliam Oslerといった医師が、近年ではTelomeraseを発見したCarol Greiderや、p53の研究で有名なBert Vogelsteinなどの高名な研究者が活躍しています。そのことより、世界各国から老若男女を問わず研究者が集まっています。日本人の医師、研究者も多数在籍しており、様々な形で(勉強会、宴会等)交流を持つことができます。
私は、腫瘍学部門の長であるPhillip Dennis 教授のもと、肺癌に関する研究を行なっていました。具体的には、マウス肺癌モデルに対し、mTOR阻害剤を用いて発癌予防、あるいは治療実験を行うといったものです。このラボでは、主に肺癌の研究を行っていますが、私は前述の研究と並行して、発癌物質誘発性マウス大腸癌モデルに対する発癌予防の研究も行いました。別の疾患モデルや慣れない検査方法(マウスの大腸内視鏡!)も、他のラボとコラボレーションすることで乗り越えることができましたし、臨床で培った知識と技術も大変役に立ったと思っています。
米国では、M.D. Ph.D.コースという臨床をしながら研究するような人材を育成するシステムがあります。私がいたラボのボスもM.D. Ph.D.で、実際、非常に優秀な医学生や、医学部入学を目指している大学院生も在籍していました。また、臨床医の観点は、かなり尊重されていて、私も当初は、英語に自信がなくて発言することが少なかったのですが、次第に、下手な英語にも臆せず色々と発言し、活発に議論できるようになりました。
この二年間、日本とは全く環境の異なる土地で、最先端の研究や異国の文化にふれ、様々な国からの研究者と知り合いになることが出来ました。もちろん、休みの日には家族と色々な場所へ旅行に行き、とても楽しく過ごせました。短い期間でしたが、今後の臨床および研究生活にとって大変有意義な経験であったと感じています。このように、留学は大変ですが、それ以上に楽しいものです。また、日本の外で暮らしてみてはじめて、日本の良さ、悪さが分かるものだと思います。興味がある方は是非、留学を志して下さい。私たちも、出来る限りお手伝いできればと思っております。